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「岸岡智樹のラグビー教室」二年目の挑戦 セルフレポート #2
番外編 / 岸岡智樹(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/RCCAメンバー) 編
2022.12.17
INTERVIEW

岸岡智樹(きしおか・ともき)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイに所属する現役選手。SO。1997年9月22日生まれ。178㌢、85㌔。大阪府出身。枚方ラグビースクール→蹉跎中→東海大仰星高→早大→スピアーズ。社会人3年目の社員選手。U20日本代表、ジュニア・ジャパン選出。学生時代からSNSをはじめネットでの発信を継続している。小中学生たちを対象に全国でおこなわれたセッションツアーは二年目を終えた。特製ラグビーノートを販売するなど、積極的な活動が注目される。

RCCA(Rugby Community Club Association)が伝えたいものは、たくさんあって一言ではちょっと表しにくい。だけど、そのメンバー一人ひとりのストーリーを紐解けば、コミュニティーの持つ空気や、バックグラウンドが見えてくるかも。彼らはどこから来たんだろう。何を目指しているんだろう。今回は現役トップ選手・岸岡智樹さん2回目の登場です(後編)。

※2022年 「岸岡智樹のラグビー教室」のあらましは、前編


ラグビー教室で意図した2022年のアップグレードのポイントのもう一つは、現地の育成に携わるコーチに、指導に加わってもらうことでしたね。ここにはどんな思いがあるのでしょう。

「地域の草の根で、息長くラグビーに携わっている方々の貢献には、僕個人には計り知れないものがあります。その地域のラグビーを土台から支えている存在です。そんな長い経験を持つ皆さんにも、ご自身の指導に自信を持てないんだと言う方は多い。『自分は選手として実績があるわけではないし…など、理由はさまざま。一つ感じるのは、とても僭越ながら…、教えている内容はそのままでも、アプローチ、伝え方が違えば、もっと選手に届くのではないかな、と。

それを言えるのは、僕自身が現役の選手だからです。いろんな指導者に教えをいただく中で、コーチの言うことを素直に聞けなかったり、もう一つ腑に落ちないという人のケースを実感している。言ってることは正しい、って頭では分かっても、それが自分のプレーやチームにうまく響かない。

僕自身もそれを模索している立場で、答えを持っているわけではないのですが…。自分の場合は、有り体に言えばネームバリューがあるし、目の前でやって見せられることで、納得感を得られることもある。決してコーチとしての能力が高いわけではないし、コーチ資格もほんの初歩のものしかありません。ただ、まだ選手だし、年齢も(子どもたちに)近いから、教わる方の気持ちはよく分かる気がします。もっとこうしてほしかったな、って思いはリアルに持っているので」

地方、地域によっても教え方は違うでしょうね。

「現地のコーチの皆さんの存在がすごくありがたいのは、皆さんにその土地の情報をいただけること。これから子どもたちと一緒にラグビーをするぞ、という場所で、グラウンドの中での県民性のようなものを、地元の方に学べるんです。コーチという同じ立場で一緒に取り組むから、いろんな面で地元の方の声を聞くことができる」

それで、セッション自体が変わるのですか。

「それこそアプローチが大事で。同じことを伝えようとしても、たとえば初めからガンガンいくのか、様子を見ながら距離を縮めていくのか。僕の接し方のせいで、心を閉じられてしまったら、せっかくいただいた時間がもったいない。僕らが同じ時間を過ごせるのは、多くても1年間のうち2時間程度。失敗してしまったら次のチャンスは1年後。いえ、二度と来てはくれないかもしれません。コーチの方々との時間は、その意味でも、僕の方が吸収させてもらうことが多い。労力だけで言えば、内輪でやった方がずっと早いけれど、本番の『2時間』の質は、大きく変えることができます」

キャンプなら、ラグビー以外の面を大切に扱える

2022年のアップグレード。一番大きなチャレンジはキャンプ形式を始めたことですね。2時間にさえそれだけの力を注ぐのだから、1泊2日のセッションに費やす労力は…。

「もう、疲労困憊です! ただ、やはりその分、得るものも大きい。コーチとして参加してくれるアスリートの声は、特に刺激になります。これは始める前から考えていたことですが、半日が1泊に変わるって、接する時間が延びるだけではない。同じ子と、いろんなタイミングや場面をともにできる。こちらに発見があって、向こうも響いてくれれば、それ以降の半日、1時間はやり取りが変わる。長いだけじゃなく深いものになる気がします」

「人間って、いつ伸びるかわからないじゃないですか。今のうまい下手より、ラグビーを続けてもらうことがすごく大切。だから、小学生には、僕らが『小学生にも伝えられること』を言えればいい。宿泊施設では、夜にアスリートにトークをしてもらったのですが、印象に残った方の話をすると、青木蘭ちゃん…さん、がいます(茅ヶ崎ラグビースクール→石見智翠館高→慶大→横河武蔵野アルテミスターズ)。子どもたちがセッションを受けている間、(合宿に同行する)保護者だけを集めて話す時間を持ったんですね」

親と子が別々の部屋で、違う人の話を聞いている?

「そうです、そうです。同じ話し手が、順番に。例えばまず子だけの会で話し、次に親だけの会で話す」

話す方は大変ですね。

「自分の何が相手に響くのか、聞き手のことを想像して準備しないといけません。そこで、青木さんの話は好評でした。僕もお母さん方と一緒に聞いていましたが、面白かった。

青木さんは家庭での母親との関係について話してくれました。子供の高塩隆化すればこうしてほしいものなんだとか、母親の意見を自分から聞き取ることで、客観的な情報を入れて自分のPDCAサイクルを回してきたんだとか。

ふだん、子どもたちがラグビー以外の時間を多く過ごすのは家族です。そこで子どもたちがどんな受け止めをされるかは大きいなと。ふつう、こうした合宿で聞き手になるのは普通、子どもだけですが、そこに親だけの会を加えたのは、一つのアイデアでした。また、親御さんは会の最後の30分は、親子一緒になって、そこに僕らコーチも入る座談会形式の時間も取りました。実は最初は、授業参観的なものでいいと思っていたんです。親は見るだけ、の…。実は僕自身が授業参観がすごく苦手だった。構えてしまうというか。普段は教室でも普通に手を挙げるのに、授業参観では絶対に挙げなかった」

反骨心なんでしょうか。

「照れもあったんでしょうね。そもそも知り合ったばかりの子たちに囲まれて、しかも親から見られて評価されるような場にいたら、みんなオープンに話したり感じ取ったりが、できないだろうと。子どもには親が知らない面があって、子どもだけの空間で出てくるものがあると思っていました。

キャンプの後に伝わってきた話なんですが、夜のミーティングの後、部屋で二人になった時に、子供がいろんな話をしてくれたと。その日にいろんな人や出来事からインプットしたことを、今度は親にアウトプットする時間だったんですよね。親は同じコーチから別の角度の話を聞いているから、いろんなやり取りができたご家庭もあったようです」

全員が日本代表になるんじゃないか

そういうラグビー以外の場を間に作って、2日目にまたラグビーの内容を持ってくる。この順番にも意味があったのですか。

「いったん、ラグビーの技術的なところから離れてもらう。そこでいろんなことを感じて、2日目のグラウンドで、吸収力が高まった状態でラグビーにスイッチオンできれば、それでいいと思ってます。「本当は、夜も含めてぎっしりラグビーの話を聞きたかった」という親御さんは多かったと思います。自分は、ラグビーばっかりじゃない方がいいなと。ただ、夜のミーティングの最後の30分は親子一緒の座談会形式にしました。Q&Aの時間帯では、個々のご家庭や子どもたちが、聞きたいことを聞ける場にしようと思って」

他に印象的なことはありましたか。

「何よりも、1日目と2日目の子どもたちの伸び率が、明らかに違ったことです。わずか2時間でこんなに変わるかというくらい。僕らが思い描いていたものを超えていました。このサイクルで毎週過ごすことができたら、全員が日本代表になるんじゃないかというくらい、可能性を秘めていると感じました。このゴールデンタイムの育成に対して、できることはまだまだあるのではと思います」

全員、日本代表(笑)!

「我が子が変わるさまを、あの場で体感された保護者の方もいたようです。する人、支える人(家族)、教える側がみんなで成長を実感できる場。これは、相乗効果を生む可能性があると思います」

保護者ご自身も、実は変わっているかも。

「ええっ。そうだったらすごいですね」

それが本当に分かるのは、お子さんだけですね。そんなにいい反響がもらえたキャンプ、もっと増やしたくなってしまうじゃないですか!

「大変だ…。でも、やってよかったと思います」

コロナ時期の深刻な2年半に、子どもたちが失ったものは大きいですね。キャンプについて、もう一つのアップグレードは、現役アスリートがコーチする、でした。

「他の現役選手にも、教えるという場を提供したいのが一つ。もう一つは、そのことによってセッション全体の満足度が上がるからです。もちろん、岸岡きっかけで来てくださった皆さんだと思いますが、僕が発信しても響かない子は当然、いるわけです。その時、その子のチャンネルに合う別の発信があればいいなと」

岸岡さん自身も、アスリートで自分とは違うタイプの『コーチ』を目の当たりにする。

「同じことを言ってもここまで響き方が違うのかと。でも、事実そうなんです。違う言葉でアプローチしたり、違う雰囲気で伝えてみたり。選手によっては、ひたすら、やってみせたり。僕はすごく勉強になった。すごい人気だったのは、新潟開催での地元選手・原わかばさん、みんな僕のいうことなんて聞いていません。それでも、わかばさんの一挙手一投足に場内が湧く。わかばちゃんは、新潟の時の人なんだなと正直、悔しいなーと思ってみていました。こういうコーチの存在は、地域全体の財産です。ラグビー界全体で育てていく、必要があると感じました。それは、僕の考える「ラグビーの地域格差」の解決に大きく役立つと思います。


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