木村貴大(きむら・たかひろ)/写真左
プロラグビー選手SH(スクラムハーフ)/172㌢、83㌔。1993年12月9日生まれ、28歳。福岡県出身。鞘ヶ谷ラグビースクール(小中)→東福岡高→筑波大→豊田自動織機→ハミルトン・マリスト→SRサンウルブズ→コカ・コーラレッドスパークス→東京サントリーサンゴリアス。
藤田慶和(ふじた・よしかず)/写真右
プロラグビー選手WTB,FB(ウイング、フルバック)/184㌢、90㌔。1993年9月8日生まれ、29歳。京都府出身。アウル洛南ジュニアRFC→洛南中→東福岡高→早稲田大→埼玉パナソニックワイルドナイツ→三重ホンダヒート。日本代表(31キャップ)、7人制日本代表。
今回は、プロラグビー選手の木村貴大さんと藤田慶和さん企画のイベント「夢トラ」についてのレビュートーク。お二人は7月22日に大東市民会館 キラリエホールで「夢トラ(木村貴大と藤田慶和の夢へのトライ2022 in大阪~トライしたもん勝ちやで~)」を開催。今回の「夢トラ」は、RCCAとのコラボレーションイベントとして開かれました。
イベント後は収益全額を、RCCA「魔法のやかん基金」へ寄付。イベント前には、経済的な理由などでこの催しに参加ができない人に対し(対象は小学生-大学生)、移動費用などを支援する呼びかけをおこないました。今回は応募なしとなったものの、さまざまなチャレンジを応援したい、というお二人の企画意図がはっきりと浮かび上がる会となりました。
インタビューには、両選手のマネジメントを担当する佐藤宏樹さん(藤田木村両選手のマネージャー、元RWC2019組織委スタッフ)、そしてRCCA事務局の北川茉以子も飛び入り参加。やかんと夢トラの交点、選手とチャリティー事業のこれからについて語っています。
木村「この企画を立ち上げた時に、全国でやりたい、多くの人と直に接していきたい思いがあったことから、まず東京、関西、九州から始めようと話していました。第1回のあとは色々なことがあったので、念願の大阪・夢トラでした」
藤田「今回も、みんなで話して、明日からまた元気になれる、そんな場になれたらと」
佐藤マネージャー「参加は80人で、3割がお子さん、7割が大人ですね。残念ながらコラボレーションで募集した支援を活用してくれる方はいなかったのですが。次につながる会になった自負はあります」
藤田「収益といっても、もともとそんなに大きな額ではないんです(笑)。このイベントは、いろいろなチャレンジを考えている人の力になりたいという趣旨で始まっているので」
RCCA北川「活用の仕方はこれからしっかり検討していきたい。少額であっても、たとえばこれを集中して一人の子への支援にあてて、どう役に立ったかがはっきり分かる方法も採れると思います」
木村「そうですね。参加者の方からすれば、参加費7,000円という設定はやや高め。今回のコラボレーション企画で、自分達のお金がどういったことに役立てられたのかを見える化するのはいいなと思う」
RCCA北川「やかん基金は皆さんの支援をお預かりしている立場。支援をする側、される側が、今後いい関係を築ける届け方を、模索しています」
藤田「ありがとうございます。一つひとつイベントを重ねて、届け方についても一緒に作り上げられたらいいな」
RCCA北川「選手がこうした社会貢献をしたいと考えた時に、活用してもらえる仕組みになりたい。RCCAにはそういう思いがあります。選手が個々に基金を立ち上げるのは大変ですよね。また、RCCAがあることで、普通なら交流のない選手同士がつながる、選手と事業がつながる橋渡しになれば」
藤田「いいですね。支援を受けた人たちがよりラグビーを好きになってくれて、選手をいっそう応援してくれて。やがて、夢トラや やかん基金を支えてくれるようになったら最高です」
佐藤マネージャー「この間、プロ野球選手の引退セレモニーを観ました。そこで花束贈呈をしたのが、彼が続けてきたランドセル基金の最初(初年度)の支援を受けた方々だった。児童養護施設にいた三人との『再会』シーンは心に残りました」
RCCA北川「支援を選手が届けることで生まれる関係がいい。受ける側からすれば、支援はそれだけでありがたいものだけれど、選手が関わることでその競技や選手により愛着が湧く」
藤田「お金以上のものが伝わる。選手側にも新たなやりがいや関係が生まれるのはありがたいです」
RCCA北川「大阪の会場では、支援をめぐってファンの方の反応を見ることができたのも収穫でした。『だから、私たちはこの二人を応援しているんだ』という気持ちが伝わってきました。選手やイベントを支えている方々のお顔が見えた気がします」
木村「いやー、M1グランプリの入場曲で入って、いきなり滑りました」
藤田「張り切りすぎ」
木村「大阪ということで、入りでどかんと笑いを取らなきゃと思って…。慶和(藤田)の反対を押し切って敢行したんですが。やはり大阪はレベルが高かった」
藤田「いえ、もう勘弁してあげてください(笑)。今回は1部、2部構成。1部は僕ら自身の経験をお伝えする講演形式。挑戦することの価値、失敗しても諦めないでまたチャレンジすることの大事さをお話ししたつもり。着地点は東京の時と同じでも、新たに話すことはたくさんありました。オリンピック含めて代表絡みの話題も。2年間…ましてコロナの厳しい時期を挟んでいたから。第2部は参加者の皆さんと交流を図る内容。じゃんけん大会で賞品が出たりで盛り上がる中、直接お話しができました」
佐藤マネージャー 「反応は、すごく良かったと感じています。最後にアンケートを取ったのですが、8割が『満足』、2割が『たいへん満足』でした
木村「今回、確信したことがあって。このイベントのキーは、まず僕ら選手が歩んでいる道がいかに失敗続きか、を伝えるってことなんですよね。選手が夢に向かっていく時って、常に脚光を浴びて、勝利だけを手にしているかのように映りがち。だけど実際はめっちゃつまずいてるんですよね。そこで、失敗からどうやって這い上がるかを繰り返している。シーズンや試合だけではなく、1回の練習やトレーニングでも『うまくいかない時にどうするか』を繰り返している。そこが伝わるといいなと。今回で言うと、よっくん(藤田)の100日間のケガの状況なんて初めて聞いた、と感激している方もいた。ラグビーファンにも意外に知られていないことはあるんですね。誰でも、失敗はするんだ。キーはそこだなって」
藤田「僕らは一スポーツ選手。万人に通じる答えを持っているわけではないと思っています。ただ、僕らの経験を話す中で、これからチャレンジする人たちに、失敗はあるよってこと、あっても落ち込まないであきらめないこと。そうすれば、夢や行きたいところに近づくことはできるんじゃないかって、伝えたい」
藤田「そうですね。皆さんの状況は千差万別だから。参加してくれた方に何かしら発信してもらえる時間が取れてよかった。いただいた質問には、自分なりに真剣に答えました」
木村「参加の方々の中には学生も多くいて、キラキラした表情で質問をしてくれる。それだけでも、こちらが何か思い出させてもらった気がしました。この気持ちを忘れたらいかんなと。会の最後は二人で皆さんとハイタッチするんですけれど、どこからか、本当に来てよかった! って声が聞こえてきて、それはうれしかった」
佐藤マネージャー「入場の受付をしていると、皆さんがどこから来ているか分かる。大阪にですよ、岐阜、愛知、福岡からも来られていた。1時間半、2時間のために。会が始まる前にそれを知ったので、これは、本当に満足して帰っていただかなくてはと、より気が引き締まりました。感じたのは、やはり来たくても来られない人は、いるだろうと。僕らから駆けつけて、もっといろんな所で開催できるようになりたいと感じました」
藤田「イベントを一から自分達でつくることができたのはよかった。佐藤(マネージャー)はMCもやってくれて、手伝ってくれる仲間がいたからできたのだけど、基本、すべてを把握して進めた。そこでいろいろ感じることがあったし、僕らの自信にもなりました」
佐藤マネージャー「全体を見ているから、これは自分達だけの力ではないって分かる。今回は個人で6人のボランティアが力を貸してくれました。受付、案内、プレゼントの袋詰めなど、一つひとつは細かいこと。ただ、その力なしにイベントは成り立たなかった。会場やプレゼントの物品など、支援してくださった企業の存在も大きかった。こうやっていろんな方の力を集めることができれば、夢トラは継続的に開催できる。より多くの人に届けたいなら規模は大きくなる。それにはお金も必要になります。支援を届けていただくRCCAとは、その過程も一緒にたどっていきたい」
木村「回を重ねて、僕らみんなが経験から身に着けてきたことがある。マネジメント面やノウハウ。今度は、次の世代の人にいい経験をしてもらう場に、このイベントを生かせないかと考えています。まだまだですけれど、自分達の人生経験からも、彼ら彼女らに伝えられることがあるかもしれない。僕らのキャリアはすごく偏っていて、ラグビー選手の中でも変則的です。だからこそ、変わらない軸を大切にしてきた自負はあります。その過程での物事の捉え方は、キャリア形成のヒントになるんじゃないかと。対象は、高校生や大学生」
藤田「僕ら、夢トラの後にスタッフで開いたリモート会議があって。これからについて話したことがあります。その一つはまず、継続すること。一度なら誰でもできる。続けるからこそ発展がある。新しいものが生まれる。歴史ができる。続ける大切さをここでまた学びました」
木村「次に九州で開くときは、この会も糧になるね」
藤田「もう一つは、第1回と同じく、講演だけではなくて、小中学生への練習会(指導)をセットにしたら、よりいろんな層の人に伝えられるのかなと。夢トラカップみたいな、大会をするのもいいかも」
藤田「そういう意味では、ほぼほぼ全編、ここだけの話っすね」
一同「あはは」
藤田「SNSってプロ選手にとっては、純粋にプライベートなものにはなりにくい。きれいなことしか残せない面もある。悔しい、しんどい、って書かないですよね。そういう意味では、夢トラに参加した人にしか感じられないことはあると思う」
木村「あっ。ありがとうございます。わたくし実は一般社団法人を立ち上げたので、明日その発表をします。夢トラでやっているようなことを、きちんと箱を作ってやりたくて」
木村「Sports Cares(スポーツ ケアーズ)という法人なのですが。ラグビーだけではなくて、チームの枠を超えて社会貢献をしたい選手って、僕の周りには多いんですよ。だけど、どこから手をつけていいかわからない。一方では、それを求めている企業や団体もたくさんあって。僕は、個人的にフードパントリー(食の支援)で作業をお手伝いしたりしているんですが、選手を求めている団体は結構ある。『誰かいい人、知らない?』って聞かれる状況。マッチしていない。それなら、その二つをつなぐ役割ができないかと。そのクラウドファンディングを10月22日から1か月公開します。慶和には、支援メンバーに入ってもらっています」
木村「選手二人の他に、理事が一人います。実は佐藤(マネージャー)の力も借りて進めています」
藤田「すでに考え始めています。お互いのスケジュールを合わせながら、諸々、調整を」
木村「もちろん!この活動は終わりません。コロナの難しさはありますが、年に一回だけのイベントだとも思っていません」
RCCA北川「終わらない、っていいですね。今回、RCCAとしてご一緒させてもらって、この夢トラ自体も、いろんなストーリーを紡いでいくんだろうなと思いました」
佐藤マネージャー「軸は変わらない。終わることもない。その中で、二人それぞれの経歴とともに、語る内容はアップデートされていくでしょうね。自分たち自身にとっても大事なイベントになっていくと感じています。
両選手が自ら話したように、プロフェッショナルの本業は競技生活にある。その勝負を日々まっとうする過程で、内なるストーリーが生まれる。二人それぞれの生き方は変わらないから、プレーが観る人の共感を呼ぶ。その時、初めてシェアする価値や場面がついてくる。彼らは日々の戦いをやめない。自らのため、人を笑顔にできる自分であるため。夢トラでシェアされているのは、選手たる二人の戦いの結晶だ。
木村貴大さんと木村勇大さん(日野レッドドルフィンズ)が立ち上げた「一般社団法人Sports Cares(スポーツ ケアーズ)」のクラウドファンディングはこちら
「魔法のやかん基金」の概要はこちら